皆さまこんばんは、プンクスです。
今回のゴーン会長逮捕の一件、前回は事件当日に書きましたが、連日新しい情報が報じられ、詳細が明らかになってきています。
バージン諸島の孫会社を用いたスキーム
オランダの子会社を通じてバージン諸島の孫会社「ジーア」がゴーン会長の高級住宅の購入費用に充てられていた、、、非常にわかりやすい構図です。
私は事件の数週間前に、偶然タックスヘイブン関連で日産の記事を書いたことがあったので、予感はしていました。
租税回避地として人気があるバージン諸島への海外直接投資は非常に膨大で、
2013年度ですと、米国、中国、ロシアに次いで第4位です。金額にして920億ドル。カリブ海の小島に非常に多額の金額が集まっています。
なぜバージン諸島が人気かというと、ここは会社設立にあたり政府の許可が必要なく、登記だけで1日で会社が作れるからです。私が会社設立したUAEではMDの要件として居住ビザが必要で1か月ほど時間を要したので、かなり違います。
バージン諸島は取締役が一人必要ですが、法人が取締役になり、個人を隠すことができます。自らが常駐することなく代理人を指定すればよく、また一定の要件のもと法人税もなく(会社登録税のみ支払う→国の財源)、申告の必要もない。UAEは180日を過ぎると例外なしにドンっとinvalidの印を押されてビザが失効するので、かなり違います。
実際は課税がないことから非常に多くのファンドが集結し、「適法に」運営しているのですが、マネロンの温床となっているのも事実です。
監査法人の責任は?
さて、最近は一般の方にも「監査法人」の存在、役割は広く浅く認知され、教科書的にはその役割が誤解され続けています。
今回は、日産の孫会社がバージン諸島で何をやっていたかわからないということで、監査法人は質問をしたが、日産側の説明に合理性があったと判断し、これ以上確かめることはなかった、というわけです。
皆さま、会計士かどうか問わず、どう思われますか?
情けないと思われるかもしれませんが、監査法人側は、このようなケースで、たいていヒアリングのみで終らせてしまいます。これは監査法人とクライアントの関係上、限界がある点でもあります。今回の10億や20億といった金額は、それ自体は大きいようですが、日産の連結売上に比べれば些細なものです。
経営者不正か否かという論点なので、決して金額だけでくくれるものではありませんが、それがわからない段階においては、「ヒアリングだけで済ませる」のは妥当な監査手続の範囲内でしょう。ただ、結果として会社の説明をうのみにして終わっただけですので、結果として、世論の支持を得るのは困難でしょう。
加えて、多くの会計士は現場実務を知りません。
日産の監査チームは大規模でしょうから、乱暴に決めつけることはできませんが、やはり現場で自分で動いて現場実務を多く経ないと、机上の内容のみでは実務者には到底勝てません。
会計士の勉強をひたすらしても、このあたりの「タックスヘイブンを用いたスキーム」はほとんど、「マネロン」については一切学ぶことはできません。マネロンは主として外為法に関係するところですから、仕方ないです。
海外送金一つとっても、実務責任者はお金がどのように銀行にチェックされ、どこにリスクがあり、どのような時に送金が遅れ、後で問題にならないよう何に気をつけるべきか、など全てよくわかっています。
このあたり監査するのであれば、ここ最近のトピックとして、来年FATFの審査が日本であるなあとか、先週あたり三菱UFJが北朝鮮がらみでやってしまったとか、最近中東あたりが偉く厳しいとか、色々な背景まで踏まえて知っておく必要があります。このあたり、話が通じなければ、外為担当者に手玉に取られるでしょう。
逆に色々精通していれば、情報を得られなくても何をやっているか推定して、適切な対応が取れたでしょう。
このような状況で、監査人が対応できるよう勉強すべきと言っても限界があります。会社との間に能力の差があり、多くは責任を負える能力を満たしていないというのが実情と考えます。
わからないから、質問をしても次に続かず、あらそう、で終わります。この金額であれば、質問をしたスタッフも中堅以下のシニア、スタッフである可能性もありますね。金額的にも連結の範囲に入っていないでしょうから、監査法人としても必要以上に追及しなくてよい大義名分もあります。
少し皮肉めいた言い方になってしまいましたが、残念ながら監査はそのようなものです。不正を発見することが目的ではないので。
通常、このような疑義が残る際は、時には重要視して、強気に出たりもしますが、多くは監査報酬の低い、または社歴の浅い企業です(10年前、JSOX導入の頃はありました。最近も人手不足からその傾向は見られます)。対して、社会的影響の多い先、監査報酬の高い先については、何か問題が生じた際に、強気に出るというより、どうやって丸く収めようかを考えるのが実情です。
大企業との関係を監査法人から切ったというニュースは聞いたことないですよね?
日産は8億近くの監査報酬、新日本監査法人のベスト10に入る大口です。
問題があったとして、そう簡単に監査の志を貫いて切るようなことはできない。このあたりが監査法人の限界です。
因みに、金商法違反ということですが、監査法人が責任を負うのはあくまで「経理の状況」、監査報告書にも明確に記載されています。つまり、この点、監査法人は文句を言われる筋合いはありません。
これは会計士にとっては当たり前の話ですが、一般にとっては知ったこっちゃない話です。
これは監査法人にとって酷でしょう。責任範囲外の内容については責任を持たないと主張しても、それだったら意味ないよね、と言われる。加えて、このような問題が起これば、パートナーは事実、社会的に深刻なダメージを負います。
このような不備だらけの監査制度の中、ルール通り監査を実施した結果、結果地雷を踏んでしまった場合に、法的には問題なくても社会的に抹殺されかねない状況は、やはりやりすぎかと思います。
私はこのような業界に見切りをつけてしまった立場で、あまりモノを言う資格はないのですが、民間の会計士として客観的に思うところです。
色々策は検討しているようですので、早い段階でこのギャップを埋めていただきたいところです。